王羲之 (おうぎし)
303年〜361年頃
【概説】
東晋代の中国で活躍し、「書聖」と称された書家。行書・草書・楷書の諸体を芸術的に洗練させ、日本の古代における木簡や公文書の書体、および貴族社会の文字文化に決定的な影響を与えた人物。
中国における「書聖」の確立
王羲之は東晋代の貴族であり、政治家としても活動しながら、独自の書風を確立した。それまでの主流であった厳格な隷書に対し、実用的で流麗な行書・草書・楷書の美的な規範を定めた。代表作とされる『蘭亭序』をはじめ、彼の書は極めて完成度が高く、後に唐の太宗皇帝が彼の真筆を収集・愛好したこともあって、中国書道史における「書聖」としての地位が不動のものとなった。
日本古代の文字文化・木簡への影響
王羲之の書風は、飛鳥時代から奈良時代にかけて日本(倭国)へ伝来した。日本の貴族社会において彼の書を模倣する「臨書」は教養の基本とされ、聖徳太子や、正倉院に遺る『楽毅論』を臨書した光明皇后など、多くの権力者がその書風を学んだ。さらにその影響は中央の貴族層にとどまらず、官衙(役所)の実務文書や、日本各地の遺跡から出土する木簡の文字にも「晋唐風」と呼ばれる王羲之由来の筆致が色濃く反映されており、日本における文字社会の形成に大きな足跡を残した。