観心寺如意輪観音像 (かんしんじにょいりんかんのんぞう)
9世紀前半
【概説】
大阪府河内長野市の観心寺に伝わる、平安時代初期を代表する木造彫刻。密教特有の神秘性と官能的な美しさを兼ね備えた、初期密教美術の最高傑作の一つである。
弘仁・貞観文化における密教彫刻の到達点
平安時代初期、最澄や空海によってもたらされた新仏教である密教は、日本の仏教美術に決定的な変革をもたらした。それまでの天平彫刻に見られた調和と写実的な美意識に対し、密教美術は「神秘性」や「超人間的な威力」を重視した。その代表例が、この観心寺如意輪観音像である。
本像は、カヤの一木造を基本としつつ、表面に乾漆(木粉と漆を混ぜたもの)を盛り上げて肉厚な質感を表現する手法が取られている。豊満で弾力性に富む肉体表現や、怪しげとも言える妖艶な表情は、現世利益を肯定する密教特有のエネルギーを内包しており、弘仁・貞観文化における独自の彫刻様式を確立した時期の傑作として高く評価されている。
六臂の造形美と現世利益への信仰
如意輪観音は、六本の腕を持つ六臂(ろっぴ)の姿で表されるのが一般的である。それぞれの腕には、人々の願いを叶える如意宝珠や、迷いを打ち破る法輪(ほうりん)などの持物(じもつ)を持ち、あらゆる衆生を救済する超自然的な力を象徴している。
観心寺の如意輪観音像は、右第一手を頬に当てて瞑想する「思惟相(しゆいそう)」をとっており、その優美な指先や腕の曲線が官能的な美しさを際立たせている。この仏像は、空海の弟子である実恵(じちえ)らによって承和年間(834〜848年)に造営された観心寺の本尊であり、平安貴族や地域社会に深く根ざした現世利益・除災招福の祈りの対象であった。その類稀なる造形美から、現在は国宝に指定され、毎年4月の数日間のみ特別に開帳される秘仏となっている。