薬師如来像 (やくしにょらいぞう)
【概説】
病気平癒などの現世利益をもたらす仏である薬師如来をかたどった仏像。古代から中世にかけて盛んに造像され、特に平安時代初期には神護寺や元興寺の像に代表される、力強く神秘的な一木造の傑作が数多く生み出された。
薬師如来信仰と現世利益の受容
薬師如来(薬師瑠璃光如来)は、東方浄瑠璃世界の教主であり、現世での病苦を除き、衣食を満たすなど12の大願を立てた仏である。来世での救済を説く阿弥陀如来に対し、病気平癒や延命といった具体的な現世利益(げんぜりりやく)をもたらす仏として、日本では古くから広く信仰された。飛鳥時代から奈良時代にかけて、天武天皇が持統天皇の病気平癒を祈って薬師寺の建立を発願した例にみられるように、まずは国家や貴族の平穏を祈るものとして受容され、やがて平安時代には密教の加持祈祷とも結びつき、より広く一般社会へ普及していった。
平安初期の彫刻表現と「一木造」の展開
美術史・彫刻史において、薬師如来像は表現技法の変遷を示す重要な指標となっている。奈良時代の乾漆像や塑像に代わり、平安時代初期(弘仁・貞観文化)には、一つの木材から像の主要部を彫り出す一木造(いちぼくづくり)が主流となった。この時期の代表作である神護寺薬師如来立像(京都府)や元興寺薬師如来立像(奈良県)は、圧倒的なボリューム感(量感)と、厳しく神秘的な表情、さらに波が交互に押し寄せるような鋭い衣の表現(翻波式衣文など)を特徴とする。これらは、平安初期特有の力強さと深い精神性を今日に伝えており、和様彫刻の確立へ向かう過渡期の傑作として極めて重要な意義を持っている。