売位・売官 (ばいい・ばいかん)
平安時代
【概説】
朝廷の深刻な財政難を補うため、内裏の造営や国家的儀式の費用などとして私財を寄付した者に、代償として位階(売位)や官職(売官)を与える制度。平安時代中期以降に広く行われるようになり、律令制的な官職制度の形骸化を象徴する現象となった。
律令財政の破綻と「成功」のシステム
平安時代中期、戸籍に基づく班田収授や租庸調の税制が機能しなくなると、朝廷の国家財政は急速に窮乏した。これにより、内裏の焼失にともなう再建や主要寺社の修造、あるいは大規模な朝廷儀式の挙行といった公的事業の費用を、通常の税収だけで賄うことが不可能となった。
そこで朝廷は、富裕な中級貴族や地方の有力者に対し、これらの事業費用(成功料)を私財から拠出させる代償として、位階や官職を与えるようになった。この仕組みを成功(じょうごう)と呼び、売位・売官の実態となった。また、すでに官職にある者が、任期を延長してもらうために私財を寄付することは重任(ちょうにん)と呼ばれた。
受領の台頭と地方政治への影響
売官の対象として最も人気が高かったのが、地方政治を統括し、莫大な徴税権と私財蓄積の機会を持っていた受領(ずりょう)(国司の最上席者)の地位であった。富裕な者たちは競って成功に応じ、莫大な費用を朝廷に献上して受領の官職を手に入れた。
こうして受領となった者たちは、投資した成功料を回収し、さらに自己の富を増やすために、任国において農民や現地の下級官吏に対して過酷な搾取を行うようになった。この受領の強欲化は、地方の治安悪化を招くとともに、武装して自衛をはかる地方領主、すなわち武士が台頭する歴史的要因の一つとなった。