新石器時代
【概説】
打製石器に加えて磨製石器や土器が使われるようになり、農耕・牧畜が始まった人類史上の文化段階。狩猟・採集を中心とした獲得経済から、自ら食糧を生産する生産経済への大転換期にあたる。日本史においては、主に縄文時代がこの段階に相当するとされている。
概念の成立と世界史における指標
19世紀のイギリスの考古学者ジョン=ラボックは、石器時代を打製石器のみを用いる旧石器時代と、磨製石器を用いる新石器時代に二分した。当初は石器の加工技術が分類の指標であったが、その後の考古学の進展により、土器の使用や農耕・牧畜の開始といった生活様式の根本的な変化こそが、新石器時代を特徴づける本質的な要素であると認識されるようになった。
「新石器革命」と人類社会の大転換
新石器時代への移行は、人類史において最も劇的なパラダイムシフトの一つである。イギリスの考古学者ゴードン=チャイルドは、狩猟・採集による「獲得経済」から農耕・牧畜による「生産経済」への移行を「新石器革命(食糧生産革命)」と呼んでその歴史的意義を高く評価した。食糧を人為的かつ安定して得られるようになったことで、人類は移動生活から定住生活へと移行して集落を形成した。また、食糧の余剰は人口の爆発的な増加をもたらすとともに、富の蓄積や職業の分化、ひいては階級社会の成立や国家の誕生へとつながる重要な土台となった。
日本列島における新石器時代(縄文時代)
日本列島において新石器時代に該当するのは、約1万数千年前に始まる縄文時代である。地球規模の気候温暖化によって更新世から完新世へと移行し、現在の日本列島に近い自然環境が形成されると、人々はその変化に適応し新たな生活様式を確立した。縄文時代には、世界最古級となる縄文土器が製作され、煮炊きによって動植物のアク抜きが可能となり食糧の幅が大きく広がった。また、木の伐採や加工作業に便利な磨製石斧が普及し、弓矢の発明や竪穴住居による定住生活の進展が見られた。
世界基準とのズレと日本史における独自の評価
世界の歴史学における一般的な新石器時代の定義は、「農耕・牧畜の開始」を必須条件としている。しかし、日本の縄文時代は、クリやヒエなどの小規模な植物栽培はみられたものの、主たる生業はあくまで狩猟・採集・漁労のままであった。このため、厳密な世界基準に照らし合わせると、本格的な農耕を持たない縄文時代を典型的な「新石器時代」と呼ぶことには矛盾が生じる。
そのため、かつては縄文時代を旧石器から新石器への過渡期である「中石器時代」に分類する見解も存在した。しかし現在では、縄文社会が農耕を持たずとも、豊かな自然環境を背景に高度な定住社会を築き、精巧な土器や土偶などに象徴される複雑で豊かな精神文化を育んでいたことが高く評価されている。今日では、農耕の有無に過度にとらわれず、土器や磨製石器を日常的に使用していた縄文時代を、日本列島における独自の発展を遂げた新石器時代として位置づけるのが一般的である。