遮光器土偶 (縄文時代晩期)
【概説】
東北地方の縄文時代晩期を代表する、北方民族の雪目防止用ゴーグル(遮光器)に似た巨大な眼を特徴とする土偶。青森県の亀ヶ岡遺跡などから出土し、高度な文様技術と縄文人の豊かな精神世界を示す。豊穣や治癒を祈る呪術的な道具として用いられたと考えられている。
「遮光器」の由来と亀ヶ岡文化の特徴
遮光器土偶は、主に縄文時代晩期(紀元前1000年〜紀元前400年頃)の東北地方、とりわけ青森県つがる市の亀ヶ岡遺跡を中心とする「亀ヶ岡文化」において盛んに製作された。その最大の特徴である誇張された大きな眼は、極北の先住民族が雪の照り返しから目を守るために着用する「遮光器(スノーゴーグル)」に似ていることから、明治時代の考古学者・坪井正五郎らによってこの名が与えられた。もちろん、実際に縄文人がゴーグルを使用していたわけではなく、神や精霊といった超自然的な存在の「眼」を象徴的にデフォルメして表現したものと解釈されている。
土偶に込められた縄文人の信仰
この土偶は、ふくよかな体つきや乳房、女性器の表現が見られることから女性像(女神)として作られたと考えられており、自然の恵みや生命の誕生、すなわち豊穣や安産を祈る呪術の対象であったと推測される。また、出土する遮光器土偶の多くは、手足などの体の一部が不自然に破壊された状態で見つかる。これは、病気や怪我の治癒を願い、患部と同じ箇所を傷つけることで災厄を土偶に引き受けさせる「身代わり」の役割を果たしていたためと考えられている。精緻な文様で全身を飾られた遮光器土偶は、縄文時代の卓越した造形美を示すだけでなく、当時の過酷な自然環境を生き抜くための切実な信仰のあり方を今日に伝えている。