帷幄上奏 (いあくじょうそう)
1889〜1945年
【概説】
大日本帝国憲法下において、陸海軍の統帥部(参謀本部・軍令部)や軍部大臣が、内閣総理大臣を経由せずに直接天皇に軍務を上奏し裁可を仰ぐことができた特権。軍の独立性を担保し、内閣による軍事への関与を排除する根拠となった制度である。
陸海軍の独立と内閣官制第7条
帷幄上奏(いあくじょうそう)の「帷幄」とは、軍制において本陣や司令部を意味する。この特権は、1889年に制定された内閣官制第7条において、軍機・軍令に関する事項は内閣総理大臣を経由せずに直接天皇に上奏(奏上)できると規定されたことに由来する。大日本帝国憲法第11条の統帥権の独立を制度的に裏付けるものであり、これにより軍の最高指揮権は、一般国務を掌る内閣の統制から完全に独立することとなった。
「二重政府」の現出と軍部独走の要因
大正デモクラシー期には政党政治の発展に伴い、一時的に軍部の政治的影響力が抑制されたものの、昭和期に入るとこの制度が内閣を制約する強力な武器として機能した。特に1930年のロンドン海軍軍縮条約締結をめぐる統帥権干犯問題以降、軍部は自らの意思を通すために帷幄上奏権を頻繁に行使するようになる。これにより、政府の方針とは無関係に軍事作戦が天皇の裁可を得て決定されるという二重政府の状態が生み出され、軍部の独走と太平洋戦争への道を開く要因となった。