スマイルズ
1812年〜1904年
【概説】
イギリスの著述家・伝記作家。主著『Self-Help』が中村正直によって『西国立志編』として翻訳され、明治期の日本において驚異的な大ベストセラーとなり、近代日本の青年たちに大きな思想的影響を与えた人物。
『西国立志編』の登場と明治のベストセラー
サミュエル・スマイルズ(Samuel Smiles)は、19世紀イギリスの医師・著述家である。彼が1859年に著した『Self-Help』は、西洋の偉人たちの苦闘と成功の歴史を引き合いに出し、個人の自立と努力の重要性を説いた実践的な倫理書であった。この書を幕臣出身の啓蒙思想家・中村正直が翻訳し、1871年(明治4年)に『西国立志編』として刊行した。同書は当時の青年たちの間で空前の大流行を見せ、福沢諭吉の『学問のすすめ』と並び、「明治の聖書(バイブル)」と称される大ベストセラーとなった。
「自助」の精神と近代化を支えた倫理観
スマイルズが唱えた「自助(セルフ・ヘルプ)」の精神は、封建的な身分制度から解放されたばかりの明治の青年たちに強い共感をもって受け入れられた。家柄や身分に関わらず、自らの意志と努力によって成功(立身出世)を掴み取ることができるという教えは、新時代の到来に沸く日本のエネルギーと見事に合致していた。スマイルズの思想は、単なる個人の出世欲を刺激しただけにとどまらず、一人ひとりが自立することで国家全体の近代化と独立を達成するという、明治期の知識人や官僚、実業家たちを突き動かす大きな精神的支柱となったのである。