五倫の道 (ごりんのみち)
1868年
【概説】
明治新政府が民衆統制のために掲げた「五榜の掲示」の第一札において、遵守すべき基本道徳とされた儒教の道徳規範。君臣・父子・夫婦・長幼・朋友の間に存すべき5つの人間関係のあり方を指す。江戸時代の旧秩序を維持し、社会の混乱を防止する目的で提示された。
儒教道徳の重視と「五榜の掲示」
慶応4年(1868年)3月、王政復古を経て成立した明治新政府は、太政官名で民衆に向けた5枚の高札からなる「五榜の掲示」を発表した。その第一札に「人たるもの五倫の道を正しくすべし」と記されたのが「五倫の道」である。五倫とは儒教における5つの基本秩序(君臣の義、父子の親、夫婦の別、長幼の序、朋友の信)を指し、新政府は殺人や強盗の禁止と同列に、この伝統的な道徳の遵守を民衆に求めた。
新政府の意図と教育勅語への系譜
政権交代という激動期において、新政府は社会秩序の崩壊を防ぐために、江戸時代を通じて民衆に浸透していた儒教的な家族観や道徳観をそのまま継承・利用しようとした。この「五倫の道」に象徴される家族主義的な秩序観は、明治国家の近代化の過程でも完全に破棄されることはなかった。むしろ、のちに近代天皇制国家の確立とともに発布される「教育勅語」(1890年)へと引き継がれ、忠君愛国を核心とする国民道徳の基盤として再編されていくこととなった。