白氏詩巻 (はくししかん)
1018年
【概説】
平安時代中期の能書家・藤原行成が、唐の詩人である白居易(白楽天)の詩を書写した書跡。洗練された和様漢字の美しさを示す、日本の書道史上において極めて重要な国宝指定の名品。
「三跡」藤原行成と和様書道の集大成
平安時代中期、遣唐使の廃止などを背景に「国風文化」が発達するなか、書道の分野においても従来の中国風の書(唐様)から脱却し、日本独自の優美な書風である和様(わよう)が確立された。この和様の確立・発展に貢献したのが、小野道風・藤原佐理・藤原行成の3人であり、彼らは「三跡(さんせき)」と称される。行成はその集大成者にあたり、彼が創始した流派は「世尊寺流(せそんじりゅう)」として後世の書道の基本となった。『白氏詩巻』は、行成が47歳の時に執筆した晩年の代表作であり、その筆致は極めて流麗かつ均整が取れており、温和で気品ある和様漢字の最高峰と評価されている。
白楽天の受容と貴族文化の教養
本作に書写されているのは、唐の詩人である白居易(白楽天)の詩文集『白氏文集』に収められた詩のなかから、行成自身が選んだ8首である。平安中期の貴族社会において、白楽天の詩は必須の教養であり、菅原道真の漢詩や紫式部の『源氏物語』などにも多大な文学的影響を与えていた。行成による『白氏詩巻』は、当時の知識階級による中国文学の深い受容を体現するとともに、外来の文化を日本風の美意識へと昇華させた国風文化の実態を伝える一級の歴史的・文化的史料である。