法華堂(三月堂) (ほっけどう/さんがつどう)
【概説】
奈良の東大寺境内に位置する、同寺に現存する最古の仏堂。本尊である不空羂索観音立像をはじめ、日本美術史を代表する優れた天平彫刻の傑作群を安置する文化遺産である。
東大寺の起源と法華堂の建築的特色
法華堂は、聖武天皇が東大寺の創建(大仏造立)を決意する以前に、私領を寄進して建てられた前身寺院である金鍾寺(こんしゅじ/きんしょうじ)の遺構とされている。もともとは本尊の名にちなみ「羂索堂(けんさくどう)」と呼ばれていたが、毎年3月に『法華経』を講じる「法華会(ほっけえ)」が行われるようになったことから、法華堂、あるいは別名として「三月堂」と称されるようになった。
建築物としても極めて特異な構造を有している。奈良時代の創建当時の姿を残す寄棟造(よせむねづくり)の「正堂(しょうどう)」と、鎌倉時代の1199(建久10)年に僧・重源(ちょうげん)らによって礼拝用の空間として再建された入母屋造(いりもやづくり)の「礼堂(らいどう)」という、異なる時代の二つの建物が背中合わせに結合されている。この合体により、天平の古典様式と鎌倉の大仏様(だいぶつよう)の技術が見事に調和した、日本建築史において極めて貴重な遺構となっている。
天平彫刻の最高峰たる諸仏と鎮護国家思想
法華堂の内部は、奈良時代の天平文化を象徴する彫刻(天平彫刻)の宝庫である。須弥壇(しゅみだん)の中央に安置される本尊の不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)立像は、麻布を漆で塗り固めて造る脱活乾漆造(だっかつかんしつぞう)の傑作であり、三の目と八つの腕(三目八臂)を持つ複雑な姿を、写実的かつ崇高な造形美で表現している。その背後の厨子には、粘土を原料とする塑像(そぞう)の傑作であり、良弁の念持仏と伝わる秘仏・執金剛神(しゅこんごうしん)立像が安置されている。
かつては同じく天平塑像の代表作である日光・月光菩薩立像や吉祥天・弁才天立像なども堂内に立ち並び、堂内は天平彫刻の一大殿堂となっていた(これらの諸仏は現在、保存環境を考慮して東大寺ミュージアムへと移管されている)。これら法華堂の仏像群は、仏教の力によって国家の安寧と平穏を祈願した、聖武天皇期の鎮護国家思想の精神世界を現代に克明に伝える文化遺産である。