赤染衛門 (あかぞめえもん)
956年頃〜1041年頃
【概説】
平安時代中期を代表する女流歌人。藤原道長の正妻・源倫子やその娘の藤原彰子に仕え、宮廷社会で重きをなした。日本最古の歴史物語とされる『栄花物語』正編の作者と目される人物である。
宮廷サロンにおける活躍と歌人としての地位
赤染衛門は、文章博士として知られる大江匡衡の妻であり、夫婦仲が非常に睦まじかったことで有名である。彼女は摂関政治の全盛期を築いた藤原道長の執政期に、道長の正妻である源倫子や、一条天皇の中宮となった娘の藤原彰子(上東門院)の身近に女房として仕えた。この彰子の宮廷サロンには、紫式部や和泉式部、伊勢大輔といった才女たちが集っており、赤染衛門はその中でも最長老格として人々から深く慕われた。彼女の歌風は穏やかで格調高く、その優れた歌才から「一条朝の四歌仙」の一人、さらには三十六歌仙・女房三十六歌仙の一人にも数えられている。
『栄花物語』執筆と歴史叙述への影響
赤染衛門の歴史的な存在価値を高めているのが、かな文字で書かれた最初の歴史物語である『栄花物語』の正編(全30巻)の実質的な作者と目されている点である。同書は藤原道長の一代記としての側面が強く、道長の栄華を極めて肯定的に描き出している。道長や倫子に長く近侍した彼女だからこそ知り得た宮廷の人間関係や、儀式・政治の有様が克明に叙述されており、当時の宮廷社会の第一級史料としても機能している。漢文による公的歴史書「六国史」が途絶えた後、女性の視点からかな文字によって紡がれた新たな歴史記述(歴史物語)の先駆けとなった点において、国文学史および日本史において極めて重要な役割を果たした。