天草版伊曽保物語

キリシタン版の一つで、ヨーロッパの動物の寓話をローマ字の日本語訳で出版した書物は何か?
カテゴリ:
重要度
★★

【参考リンク】
ギリシャ(Wikipedia)

天草版伊曽保物語 (あまくさばんいそほものがたり)

1593年

【概説】
安土桃山時代にポルトガル人宣教師らによって刊行されたキリシタン版の代表的な書物。西洋の『イソップ寓話』を当時の日本の口語に翻訳し、ローマ字表記の金属活字を用いて印刷した語学教材。当時の実践的な日本語の発音や文法、語彙を現代に伝える極めて貴重な言語史料である。

西洋式活版印刷の伝来とキリシタン版

16世紀半ばのキリスト教伝来以降、イエズス会をはじめとする修道会は日本国内で積極的な布教活動を展開した。1590年、イエズス会準察師であるアレッサンドロ・ヴァリニャーノが天正遣欧使節を伴って再来日した際、日本に初めて西洋式の金属活字印刷機がもたらされた。これにより、天草や長崎などのコレジオ(宣教師養成学校)において、キリスト教の教理書や語学書、文学書が印刷された。これらを総称してキリシタン版(吉利支丹版)と呼ぶ。1593(文禄2)年、天草のコレジオで印刷された『天草版伊曽保物語』は、こうした最先端の活版印刷技術を用いて制作された出版物の一つである。

宣教師の日本語学習教材としての役割

『天草版伊曽保物語』がローマ字で表記されている最大の理由は、これが来日した外国人宣教師たちの日本語学習用テキストとして企画されたからである。宣教師が日本の民衆に直接キリスト教の教えを説くためには、格調高い文語ではなく、当時の人々が日常的に使っていた生きた話し言葉(口語)を習得する必要があった。そのため、本書の文章は戦国・安土桃山時代の口語体へと翻訳され、宣教師たちが日本語の発音をダイレクトに認識できるようにローマ字で印刷された。なお、本書は『平家物語』(ハボカシ=略約版)や、東洋・西洋の格言を集めた『金句集』と合冊されており、宣教師が日本の歴史や倫理観を学びつつ、実用的な日本語を修得するための体系的な副読本であった。

国語学および比較文学における歴史的意義

本書は、言語学・国語学において極めて高い学術的価値を有している。従来の漢字かな混じり文では判別しにくい「当時の実際の発音(音韻)」がローマ字表記によって正確に記録されているため、中世末期から近世初期にかけての日本語の変遷を知るうえで欠かせない一級の史料となっている。また、文学史的には、西洋の寓話が日本に導入された最初期の翻訳文学であり、のちに和訳の『伊曽保物語』として国字(ひらがな・漢字)で再出版され、江戸時代の仮名草子などを通じて日本の庶民に広く親しまれる契機となった。その後の徳川幕府による禁教政策の強化によってキリシタン版の多くは焼却・散逸したが、本書は西洋文化の受容と当時の言語状況を今に伝える貴重な文化遺産として、現在はイギリスの大英図書館などに所蔵されている。

ESOPO イソップの生涯の物語 天草本伊曽保物語より

古の口語体が織りなすイソップの奇妙な生涯と、語り継がれる教訓が現代に蘇る、異国情緒あふれる物語の集成。

伊曾保物語―天草本 (ディスカヴァーebook選書)

天草版の原文を忠実に現代語訳した、日本における西洋寓話受容の歴史と知恵が詰まった必読の古典文献。

最終更新:2026年6月17日 @ 23:49

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