中華思想(華夷思想)

重要度
★★★

【参考リンク】
中華思想(Wikipedia)

中華思想(華夷思想)

【概説】
中国の皇帝を中心に、自国を世界の文化的中心(華)とし、周辺の異民族を野蛮(夷)と見なす思想。古代中国において形成された強固な自文化中心主義的な世界観である。朝貢や冊封といった東アジア特有の国際秩序を長きにわたって規定し、日本の古代国家の形成や外交政策にも多大な影響を与えた。

中華思想の基本構造と「四夷」

中華思想(華夷思想)は、中国文明が世界で最も優れており、世界の中心であるとする思想である。「華」や「夏」は文化的に洗練された中心部(中国)を意味し、その周辺に住む人々を野蛮な異民族として「夷」と呼んで蔑視した。具体的には、四方の方角に合わせて東夷(とうい)西戎(せいじゅう)南蛮(なんばん)北狄(ほくてき)と分類し、これらを総称して「四夷(しい)」と呼んだ。

この思想の根底には、天命を受けた中国の皇帝(天子)の徳が、中心から同心円状に周辺へと及んでいくという「王化思想」がある。つまり、地理的な近さだけでなく、漢字や儒教、律令などの中国文化・制度をどの程度受容しているかという「文化の共有度」によって、華と夷が区別された。したがって、元々は「夷狄」とされた異民族であっても、中国の文化を受け入れれば「華」に同化しうると考えられていた点に特徴がある。

冊封体制と東アジアの国際秩序

この中華思想を現実の外交や国際関係のルールとして適用したものが、冊封体制(さくほうたいせい)である。中国の周辺国の君主は、中国の皇帝に対して貢物を捧げる(朝貢)代わりに、皇帝から返礼品を下賜され、さらにその地域の王としての称号(爵位や印綬)を与えられた(冊封)。

これは形式上は中国皇帝と周辺国の君主との「主従関係」を結ぶものであり、周辺国は中国に対して臣下の礼をとる必要があった。しかし、周辺国の君主にとっては、強大な中国王朝の権威を後ろ盾とすることで、自国内における支配力を正当化し、周辺対立国に対する軍事・外交的優位性を確保できるという極めて大きな実利があった。そのため、東アジア諸国は自ら進んでこの中華思想に基づく非対称な国際秩序に組み込まれていったのである。

古墳時代の倭国と中華思想の利用

日本史において、この中華思想と冊封体制が最も明確に利用されたのが古墳時代である。5世紀における「倭の五王」(讃・珍・済・興・武)は、中国の南朝(宋など)に対して盛んに朝貢を行った。中国側の歴史書『宋書』倭国伝には、倭王が自ら使者を派遣し、中国皇帝から「安東大将軍 倭国王」などの称号を求めたことが記録されている。

当時の倭国は、ヤマト王権による国内統一の途上にあり、さらには朝鮮半島南部(百済や新羅、加耶地域)における政治的・軍事的な権益を確固たるものにしようとしていた。そこで倭の王たちは、中華思想における「東夷」としての立場を甘受してでも中国皇帝に臣従し、冊封を受ける道を選んだ。強大な中国の権威(称号)を借りることで、国内の豪族たちを抑え込み、朝鮮半島諸国に対して優位に立とうとする高度な外交戦略であったといえる。

日本における中華思想の受容と「小中華」への変容

古墳時代を通じて中国の権威を利用した日本であったが、7世紀の飛鳥時代に入るとその外交姿勢に変化が生じる。推古天皇の時代、聖徳太子(厩戸王)が派遣した遣隋使(607年)において、「日出處天子 致書日沒處天子(日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す)」という国書を持参させた。これは、中華思想の中心である中国皇帝(天子)に対して、倭国の君主も独自の「天子」であると主張し、これまでの冊封体制(主従関係)からの離脱と対等な関係を模索した画期的な出来事であった。

さらに時代が下ると、日本は単に中国の中華思想から独立するだけでなく、自らを「華(中心)」とし、周辺の諸民族(蝦夷や隼人、のちには琉球やアイヌなど)を「夷」と見なす「日本型華夷思想(小中華思想)」を形成していくことになる。律令国家の完成とともに天皇を中心とする独自の文明圏(神州)を確立しようとしたこの動きは、元来中国のものであった中華思想の構造を、日本が独自に模倣・内面化し、自国の国家形成と支配の正当化に転用した結果であるといえる。

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