翻波式 (ほんぱしき)
主に9世紀
【概説】
平安時代初期の木彫仏に多く見られる、衣服の皺(衣文)の表現様式。高い波(大波)と低い波(小波)を交互に刻み出す、鋭く力強い彫法が特徴。
弘仁・貞観文化の木彫彫刻と「翻波式」
平安時代初期(9世紀)の弘仁・貞観文化期には、密教の伝来にともない、山岳寺院を中心に木造の仏像(一木造)が数多く制作された。この時期の仏像は、奈良時代の塑像や乾漆像に見られた写実的で調和のとれた表現とは対照的に、神秘的で力強く、時に威圧的な生命感をもつ点が特徴である。翻波式は、このような一木造の量感(ボリューム感)と精神的な深みを強調するために用いられた、この時代を代表する彫刻技法である。
翻波式衣文の特徴と歴史的意義
翻波式衣文の造形的な特徴は、断面が鋭く尖った高い稜線(大波)と、その間に挟まれた丸みを帯びた低い稜線(小波)が交互に並ぶことにある。この深く刻まれた立体的なひだは、木肌に強い陰影を生み出し、仏像に超人間的な厳めしさと呪術的な雰囲力を与える効果をもたらした。代表的な作例としては、室生寺釈迦如来立像や元興寺薬師如来立像などが挙げられる。10世紀半ばを過ぎ、国風文化の発達とともに定朝様(寄木造)などの優美で平穏な彫刻様式が主流になると、この力強く峻厳な翻波式は次第に姿を消していった。