金正恩 (きむじょんうん)
【概説】
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の第3代最高指導者。父・金正日の急死に伴い若くして最高権力を継承し、独裁的な世襲支配体制を確立した。核開発や弾道ミサイル発射を急速に進め、平成後期における日本の安全保障政策に深刻な緊張と多大な影響を与えた人物である。
三代にわたる世襲体制の確立と独裁権力の掌握
2011年12月、父である金正日総書記の急死により、金正恩は事実上の後継者として表舞台に立った。当初はその若さから集団指導体制への移行や権力基盤の脆弱さが懸念されたが、軍や党の幹部を相次いで粛清。2013年には最高指導部の一角であり後見人でもあった叔父の張成沢を処刑し、権力の一極集中を急速に進めた。その後、最高尊厳としての地位を不動のものとし、朝鮮労働党委員長、さらに労働党総書記へと就任して、金日成・金正日から続く三代世襲体制を完全に確立した。
核・ミサイル開発の加速と日本の安全保障政策の転換
金正恩体制は「核開発と経済建設の並進路線」を掲げ、軍事力の近代化を最優先課題とした。金正恩の主導のもとで核実験が繰り返され、日本列島を飛び越える太平洋への弾道ミサイル発射実験が日常化した。特に2016年から2017年にかけての相次ぐミサイル発射とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発成功は、日本国内に強い危機感をもたらした。これにより、日本政府は国民に対して避難を呼びかけるJアラート(全国瞬時警報システム)の運用を本格化させた。さらに、この北朝鮮による軍事的脅威の増大は、安倍晋三政権下での平和安全法制(安全保障関連法)の整備や、防衛装備の増強、さらには敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に関する議論を急速に進展させる直接的な契機となった。
拉致問題の膠着と揺れる日朝関係
2002年の日朝平壌宣言以降、日朝間の最大の懸案事項である日本人拉致問題において、金正恩体制下では対話と決裂が繰り返された。2014年には「ストックホルム合意」により、北朝鮮側が拉致被害者を含む全日本人の包括的な調査を行うことで合意したものの、その後の核実験強行に伴う日本の独自制裁強化に対抗し、北朝鮮側は調査の中止と特別調査委員会の解体を宣言した。2018年には史上初となる米朝首脳会談が実現し、日本政府も拉致問題の解決に向けた直接対話を模索したが、対北朝鮮制裁の解除をめぐる米朝対立の激化により交渉は停滞。日本にとって安全保障上の最大の脅威であり、拉致問題の解決相手である金正恩との外交交渉は、平成から令和にかけて極めて困難な課題として引き継がれている。