清良記 (せいりょうき)
17世紀前半成立
【概説】
江戸時代初期に成立した、日本最古の農書とされる書物。伊予国(現在の愛媛県)の領主・土居清良の事績を記した軍記物であるが、その一部に農事や農政に関する詳細な記録が含まれているのが特徴である。
軍記物としての性格と成立背景
『清良記』は、伊予国宇和郡の国人領主であった戦国大名・土居清良(どいきよよし)の一代記を中心とした軍記物である。全30巻から構成され、江戸時代初期の寛永年間(1624年〜1644年)頃に、清良の遺臣である大野直昌らによって執筆・編纂されたと考えられている。戦国時代における伊予国南部(南予地方)の政治的情勢や、西国大名との攻防を伝える貴重な歴史史料である。
「親民の巻」と日本最古の農書としての価値
本書が日本史において特に重要視されるのは、全30巻のうち巻第七にあたる「親民(しんみん)の巻」の存在による。この巻では、清良の家臣であったとされる老農・松浦親(まつうらちかし)が、領主である清良の問いに対して農業技術や農政のあり方を答えるという問答形式がとられている。ここに四季折々の農作業、稲の品種選択、施肥(肥料の施し方)、灌漑、さらには農民の生活や心得に至るまでが具体的に記されており、これが実質的な日本最古の農書として位置づけられる根拠となっている。
近世農業史における歴史的意義
『清良記』に描かれた農業技術は、中世末期から近世初期にかけての西日本における農業生産力の実態をリアルに示している。のちに元禄期に刊行される宮崎安貞の『農業全書』のような全国的・体系的な農書に先駆け、地域の気候風土に即した実践的な伝承や経験が明文化された点に大きな意義がある。また、領主が領民をいかに把握し、勧農(農業の推奨)を行っていたかという、初期の兵農分離期における農政思想を知る上でも不可欠な一級史料である。