吹抜屋台 (ふきぬきやたい)
平安時代
【概説】
日本の絵巻物などで用いられる、建物の屋根や天井を描かずに室内を斜め上から俯瞰するように描く表現技法。平安時代に発達した大和絵の代表的な特徴の一つであり、登場人物の人間模様や室内情景を効果的に描写するために考案された。
「透視」と「俯瞰」が生み出す劇的空間
吹抜屋台は、平安時代中期の国風文化の興隆とともに発展した大和絵(やまとえ)において確立された独特の描法である。建物の屋根や天井、さらには梁(はり)などを敢えて取り除き、斜め上空から室内を覗き込むような視点(俯瞰構図)で描かれる。この技法により、本来は外から見えないはずのプライベートな室内空間と、そこで展開される登場人物たちの微細な表情や心理葛藤を、鑑賞者に対して一目で提示することが可能となった。
『源氏物語絵巻』に見る感情の視覚化
この技法が最も効果的に、かつ洗練された形で用いられている代表例が、平安時代末期の制作とされる『源氏物語絵巻』である。例えば「東屋」や「柏木」の場面では、斜めに引かれた平行線(斜線構成)によって室内の緊迫した空気感や、登場人物たちの屈折した恋愛感情、苦悩がドラマチックに表現されている。また、引目鉤鼻(ひきめかぎはな)と呼ばれる、目を一本の線、鼻を「く」の字で描く極度に抽象化された顔の表現と「吹抜屋台」が組み合わさることで、説明的な描写を排した高雅で象徴的な抒情空間が創り出されている。