雑誌『郷土研究』 (きょうどけんきゅう)
1913年創刊
【概説】
1913(大正2)年に柳田国男と高木敏雄によって創刊された、日本初の本格的な民俗学・郷土研究の専門学術雑誌。全国各地の民間伝承、風習、方言などの調査報告を集積・紹介したメディア。大正期における日本民俗学の黎明期において、研究推進と情報交換の重要な拠点となった。
創刊の背景と地方の近代化への危機感
明治後期から大正期にかけての日本は、日露戦争後の産業革命を経て急速に近代化と都市化が進行していた。これに伴い、地方に古くから伝承されてきた伝統的な共同体の生活様式、民間信仰、口頭伝承などは急速に消滅の危機に瀕することとなった。こうした現状に強い危機感を抱いたのが、農商務省の官僚であった柳田国男と、ドイツ留学を経て近代的な神話学・民俗学を日本に紹介していた高木敏雄であった。二人は、地方に埋もれている古俗や伝承を網羅的に収集・記録する必要性を唱え、全国の郷土研究者からの情報発信と学術的討議の場として、1913年に雑誌『郷土研究』を創刊した。
日本民俗学の基礎構築と歴史的意義
『郷土研究』は、単なる趣味的な郷土愛にとどまらず、科学的な学問としての「民俗学」を日本に定着させる上で決定的な役割を果たした。全国各地の教員や地方知識人から寄せられた歳時記、婚姻・葬送などの通過儀礼、妖怪や神々の伝承、方言などの生きたデータは、それまで文字資料(文献)を中心としていた日本の歴史学に一石を投じた。本誌を媒体として形成された研究者ネットワークと現地調査(フィールドワーク)の手法は、後に柳田国男が体系化する、文字を持たない常民(庶民)の歴史を解き明かす「一国民俗学」の確固たる土台となった。