足利直義

尊氏の弟で、建武政権下では鎌倉将軍府の実権を握り、幕府成立後は政務を担当したが、のちに兄と対立した人物は誰か?
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★★★

足利直義 (あしかがただよし)

1306〜1352

【概説】
足利尊氏の同母弟であり、室町幕府創設期において兄を補佐し「二頭政治」の一翼を担った武将・政治家。建武政権下では成良親王を奉じて鎌倉将軍府の実権を握り、幕府成立後は裁判などの政務を統括した。しかし、のちに革新派の高師直と対立し、全国を巻き込む観応の擾乱を引き起こして兄と干戈を交え、非業の死を遂げた。

鎌倉将軍府の実権掌握と中先代の乱

足利直義は、鎌倉幕府の有力御家人であった足利貞氏の三男として生まれ、のちに室町幕府初代将軍となる足利尊氏の同母弟にあたる。元弘の乱においては兄に従って鎌倉幕府打倒に貢献し、後醍醐天皇による建武の新政が始まると、後醍醐の皇子である成良親王(なりよししんのう)を奉じて鎌倉へ下った。これが鎌倉将軍府であり、直義はその執権(事実上のトップ)として東国支配の実権を握った。

1335年、北条高時の遺児である北条時行が鎌倉幕府再興を掲げて挙兵する(中先代の乱)。大軍に攻め込まれた直義は鎌倉を支えきれず敗走するが、その際、鎌倉に幽閉されていた後醍醐天皇の皇子・護良親王(もりよししんのう)が北条軍に奉じられることを恐れ、配下に命じて暗殺した。その後、直義の窮地を救うために勅許を待たず東下してきた尊氏とともに北条軍を破って鎌倉を奪還したが、直義の強い進言もあり、足利軍はそのまま建武政権から離反することとなる。

室町幕府の創設と「二頭政治」の確立

建武政権を崩壊させた尊氏が1338年に征夷大将軍に任じられ、正式に室町幕府が開かれると、幕府は尊氏と直義による事実上の二頭政治体制へと移行した。カリスマ性を持ち、軍事指揮権や恩賞の宛行(主従制的支配)を担当する兄・尊氏に対し、理知的で実務能力に長けた直義は、所領裁判や行政全般(統治権的支配)を統括して幕府の土台を築き上げた。

直義は鎌倉幕府の法秩序や御成敗式目を理想とし、武士の勝手な振る舞いや公家・寺社領への侵害を厳しく取り締まる保守的な政治理念を持っていた。幕府の基本方針を示した『建武以来追加』の制定を主導したのも直義である。また、禅宗に深く帰依し、夢窓疎石との対話をまとめた『夢中問答集』を残すなど、高い教養を備えた文化人でもあった。

高師直との対立と観応の擾乱の勃発

直義の保守的な政治姿勢は、戦乱のなかで実力によって所領を拡大しようとする新興武士層(悪党や国人)の反発を招いた。これらの急進的な武士たちの支持を集めたのが、尊氏の執事として軍事・恩賞面で絶大な権力を握っていた高師直(こうのもろなお)であった。伝統的秩序の維持を重んじる直義と、旧勢力の権益を打破しようとする師直の対立は、やがて幕府を二分する深刻な権力闘争へと発展していった。

1349年、直義は師直の暗殺を企てるが失敗し、逆に師直の軍勢に邸を包囲されて政務からの引退と出家を余儀なくされる。直義に代わって尊氏の嫡男・足利義詮が鎌倉から呼び戻されて政務を担うことになったが、直義を支持する武士たちは依然として多く、直義は1350年に京都を脱出して南朝に降伏するという奇策に打って出た。直義が南朝の権威を背景に挙兵したことで、観応の擾乱(かんのうのじょうらん)と呼ばれる未曾有の内部抗争が勃発したのである。

兄・尊氏との決戦と悲劇的な最期

観応の擾乱の初期、直義方は圧倒的な優位に立ち、1351年の打出浜の戦いで尊氏・師直の軍勢を打ち破った。敗れた尊氏と和睦した直義は、出家を条件に師直らの助命を認めたが、護送中に直義派の武将・上杉能憲らによって師直一族は惨殺された。これにより直義は再び幕政の実権を掌握したかに見えた。

しかし、直義と尊氏・義詮父子との間の亀裂は修復不可能であり、数ヶ月後には両者は再び決裂した。今度は尊氏が南朝に降伏して「正平一統」を成立させ、直義追討の綸旨を得るという逆転の一手を打つ。大義名分を失った直義は北陸を経て鎌倉へ逃れたが、薩多山(現在の静岡県)の戦いで尊氏軍に大敗を喫し、1352年正月に降伏した。

鎌倉の浄妙寺境内に幽閉された直義は、同年2月に急死した。『太平記』などは、尊氏による毒殺であったと伝えている。足利直義の存在は、室町幕府創設期の政権基盤を確立する上で不可欠であったが、その強すぎる実務権力と保守性が新興勢力との摩擦を生み、皮肉にも初期幕府最大の危機を招く結果となったのである。

足利直義:下知、件のごとし (ミネルヴァ日本評伝選)

南北朝の動乱期を影で支えた実務家としての足利直義の生涯を、膨大な史料から解き明かす決定的な評伝。

観応の擾乱 – 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書 2443)

室町幕府崩壊の危機を招いた尊氏・直義兄弟の壮絶な内乱の全貌を、気鋭の研究者が活写した歴史ドキュメント。

最終更新:2026年6月17日 @ 23:49

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