芥川賞

亡き親友を記念して1935年に菊池寛が創設した、純文学の新人作家に対して与えられる日本で最も有名な文学賞は何か?
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★★★

芥川賞

1935年〜

【概説】
1935年(昭和10年)に菊池寛が親友であった芥川龍之介の業績を記念して創設した、純文学の新人作家に与えられる最も有名な文学賞。正式名称は芥川龍之介賞であり、大衆文学を対象とする直木賞とともに、日本において最高の権威と知名度を誇る。有能な新人を発掘し、文壇に新たな才能を送り出す登竜門としての役割を現代に至るまで担い続けている。

創設の背景と菊池寛の構想

芥川賞(正式名称:芥川龍之介賞)は、1935年(昭和10年)に雑誌『文藝春秋』の創始者である菊池寛によって創設された。大正時代を代表する知性派の作家であり、菊池の第一高等学校時代からの親友でもあった芥川龍之介が1927年(昭和2年)に自ら命を絶ったことは、当時の文壇に計り知れない衝撃を与えた。菊池は亡き盟友の名を長く後世に伝えるとともに、当時不況にあえいでいた出版界を活性化させ、無名の新人作家に世に出る足がかりを提供することを目的としてこの賞を企画した。

同時に、大衆文学の隆盛に貢献して早世した直木三十五を記念する直木賞(直木三十五賞)も創設された。芥川賞が新聞や雑誌(主に同人雑誌)に発表された純文学の短編・中編作品の「新人」を対象とするのに対し、直木賞はエンターテインメント性を重んじる大衆文学の「新人もしくは中堅」を対象とするという明確な棲み分けがなされた。これにより、純文学と大衆文学という日本の近代文学における二大潮流を網羅する賞体系が確立されたのである。

戦前の展開と文壇への波紋

第1回の芥川賞は1935年の上半期に選考が行われ、ブラジル移民の実態を描いた石川達三の『蒼氓(そうぼう)』が受賞した。この賞の創設は、単なる文学的評価にとどまらず、受賞作が雑誌『文藝春秋』に全編掲載されるという画期的なシステムをとっており、無名作家が一夜にして全国的な知名度を得るという「文壇の登竜門」としての性格を決定づけた。

一方で、選考をめぐる軋轢も生じた。特に第1回選考において、選考委員であった佐藤春夫や川端康成らと、落選した太宰治との間で繰り広げられた書簡や紙面を通じた論争は有名である。太宰は生活苦や精神的危機から芥川賞の賞金と名誉を強く渇望し、川端に受賞を哀願する手紙を送るなどしたが、結局受賞には至らなかった。こうした話題性もまた、芥川賞の知名度を皮肉にも高める結果となった。その後、日中戦争から太平洋戦争へと戦局が激化する中で、1945年(昭和20年)に賞は一時中断を余儀なくされる。

戦後の復活と社会的ブームの創出

終戦後の1949年(昭和24年)、芥川賞は直木賞とともに復活を遂げた。戦後の芥川賞は、単なる文壇の内輪の賞にとどまらず、日本社会全体に大きな影響を与えるジャーナリスティックなイベントへと成長していく。その決定的な転機となったのが、1956年(昭和31年)の第34回における石原慎太郎の『太陽の季節』の受賞である。既存のモラルを破壊する若者たちの生態を描いた同作は、選考委員の間で激しい賛否両論を巻き起こしたが、受賞後はベストセラーとなり、「太陽族」という流行語を生み出すなど社会現象を引き起こした。

その後も、大江健三郎(『飼育』)、開高健(『裸の王様』)、村上龍(『限りなく透明に近いブルー』)など、時代を象徴する新たな才能を次々と発掘していった。受賞記者会見はテレビや新聞を通じて全国に報道されるようになり、芥川賞は文学界の枠を超えた国民的な関心事としての地位を確立した。

日本文学史・文化史における意義

芥川賞の歴史的意義は、大正時代に花開いた近代文学の知的遺産(芥川龍之介)を冠に掲げながら、昭和から平成、そして令和へと続く日本文学の新たな潮流を定点観測的に提示し続けている点にある。「純文学」という概念自体が時代とともに変容していく中で、芥川賞の選考委員による議論は、常に「現代における文学的価値とは何か」という根源的な問いを社会に投げかけてきた。

また、菊池寛が構想した「文学と商業主義の融合」という側面においても、芥川賞は日本の出版文化の発展に多大な寄与をした。優れた新人作家の発掘機構として、これほど長期にわたり権威と社会的影響力を維持している文学賞は世界的にも類例が少なく、日本の近現代文化史・社会史を語る上で欠かすことのできない重要な制度となっている。

芥川賞全集 第十八巻

大正期の文学的結実を収めた短編集。近代日本文学の到達点を示す、芥川賞の歴史を辿るための必携の一冊。

菊池寛戯曲全集

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最終更新:2026年6月17日 @ 23:49

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