檜皮葺
【概説】
ヒノキ(檜)の樹皮を少しずつずらしながら重ねて竹釘で固定する、日本独自の伝統的な屋根葺き技法。平安時代に国風文化の興隆とともに確立され、宮殿や高位の神社、貴族の邸宅などの屋根を彩る最高級の格式を持つ建築様式である。
檜皮葺の高度な技術と自然共生的な資材調達
檜皮葺は、ヒノキの立ち木から剥ぎ取った樹皮(檜皮)を加工し、何重にも重ねて竹釘で打ち付けながら屋根を覆う技法である。この技法は、瓦葺きに比べて屋根全体の重量を大幅に軽量化できるため、柱を細くし、開放的な空間を作り出す日本古来の木造建築に適していた。さらに、檜皮は柔軟性に富んでいるため、日本建築特有の優美な曲線(軒の反りや起り)を滑らかに表現することが可能であった。この資材を採取する専門の職人を「原皮師(もとかわし)」と呼び、彼らはヒノキの木を伐採することなく、表面の粗皮だけを剥ぎ取った。剥がされた樹皮は10年前後で再生するため、檜皮葺はきわめて持続可能な、日本の豊かな森林資源を活用した知恵の結晶でもあった。
瓦葺きとの対比と「国風化」による格式の形成
飛鳥・奈良時代に大陸から仏教建築が伝来した際、寺院には重厚な「瓦葺き」が導入され、これが最先端の格式とされた。しかし、多雨多湿な日本の気候において、重い瓦を支える強固な構造は、時に湿気を通しにくいという短所もあった。これに対し、平安時代に国風文化が発達すると、日本独自の美意識に基づく「和様」の建築様式が台頭する。その代表例が貴族の邸宅である寝殿造であり、そこでは瓦ではなく檜皮葺や板葺が選ばれた。特に檜皮葺は、その薄い樹皮を幾重にも重ね合わせることで生じる肉厚で温かみのある質感が好まれ、次第に瓦葺きを凌ぐ宮廷・貴族社会の「最高格の屋根」として位置づけられるようになった。こうして、内裏(御所)や厳島神社などの有力社寺、権威を象徴する建築において、檜皮葺は欠かせない意匠となったのである。