党生活者
【概説】
プロレタリア文学を代表する作家・小林多喜二による中編小説。天皇制政府による厳しい弾圧下で、非合法活動を行う日本共産党員の緊迫した地下(アジト)生活と闘争の日常をリアリスティックに描いた、著者の事実上の遺作。
国家権力の弾圧と地下生活のリアリズム
1920年代末から1930年代初頭にかけての日本は、世界恐慌の影響による社会的不安と、軍部の台頭、そして国家権力による思想統制の強化という激動の時代にあった。特に1925年に制定された治安維持法は、1928年の緊急勅令により最高刑が死刑へと厳罰化され、日本共産党などの社会主義・共産主義運動に対する徹底的な弾圧が行われた。これがいわゆる三・一五事件(1928年)や四・一六事件(1929年)である。
こうした状況下で、活動家たちは合法的な活動を奪われ、地下に潜伏して非合法活動を継続せざるを得なくなった。多喜二自身も共産党員として地下生活に入り、警察の追及を逃れながら執筆活動を続けた。本作『党生活者』は、その執筆者本人の極限状態における実体験を反映しており、軍需工場でのストライキを指導する組織のあり方や、裏切り者(スパイ)に対する警戒、活動を支える周囲の人々との人間模様が、極めて高い緊張感をもって描かれている。
プロレタリア文学の到達点と多喜二の死
本作は、多喜二の初期の代表作『蟹工船』に見られるような集団の自然発生的な蜂起を描いた段階から進み、より組織的かつ自覚的な「活動家」の日常と精神的葛藤に肉薄している。単なるイデオロギーの宣伝にとどまらず、弾圧に抗う人間の生活や感情を緻密に描写した点において、日本におけるプロレタリア文学の芸術的到達点の一つと評価されている。
しかし、本作の完成直後である1933年2月20日、多喜二は連絡先で特別高等警察(特高警察)に逮捕され、その日のうちに激しい拷問によって虐殺された(享年29)。そのため、本作は多喜二の死後、1933年4月発行の雑誌『中央公論』に『転換時代』という仮の題名で、当局による検閲を避けるための夥しい伏字(ブランク)を施された状態で掲載された。戦後の1946年になってようやく、本来のタイトルである『党生活者』として伏字のない完全な形で出版され、昭和初期の過酷な言論統制と抵抗の歴史を伝える貴重な文学的・歴史的史料となった。