今鏡 (いまかがみ)
【概説】
平安時代末期に成立した、仮名交じり文による歴史物語。「四鏡(しきょう)」の第2作にあたり、先行する『大鏡』の叙述を受け継いで、後一条天皇から高倉天皇に至る約150年間の宮廷歴史を紀伝体で描いた作品。
「四鏡」の系譜と『大鏡』を継承した独自の構成
『今鏡』は、歴史を「鏡」に例えて客観的に叙述する「鏡物(かがみもの)」の一大系譜に連なる作品である。成立順では『大鏡』に続く2番目の作品であり、後一条天皇の万寿2年(1025年)から、高倉天皇の嘉応2年(1170年)までの13代・約150年間の歴史を扱っている。物語は、嘉応2年の初瀬詣での途上、大和国の東光寺において、150歳に及ぶ長寿の尼(『大鏡』の語り手である大宅世継の孫の「あやめ」とされる)が、旅の修行者に対して過去の宮廷の思い出を語りかけるという対話体(問答体)の形式をとる。この手法は『大鏡』の構成を忠実に模倣したものであり、臨場感あふれる語り口の中に過去の歴史を位置づける工夫がなされている。
激動の院政期における文芸への傾倒と歴史的意義
本作が執筆された12世紀後半は、保元の乱や平治の乱を経て、貴族から武士へと権力が移行し、平氏政権が確立しつつある激動の時代であった。しかし、『今鏡』の叙述はこうした凄惨な政治権力闘争や戦乱の描写を極力避け、和歌の逸話や公家社会の華やかな儀礼・文芸活動に多くの紙幅を割いている点に大きな特徴がある。そのため、別名「小鏡」や「歌鏡」とも呼ばれる。著者は藤原南家出身の文人貴族で、後に京極派の歌人として活躍し出家した藤原為経(寂超)とする説が極めて有力である。作者の公家社会への強い愛着と懐古の情が、失われつつある宮廷文化を和歌や故実を通して美化し、後世へと伝える役割を果たしている。政治的批判精神が際立つ『大鏡』とは対照的に、懐古的で穏和な視点で貫かれており、平安末期の貴族階級の精神世界や文化的な教養を分析する上で極めて高い史料的価値を有している。