ハンド=アックス(握槌)
【概説】
手で直接握り、切る、削る、叩く、掘るなど多目的に用いられた、楕円形や涙滴形をした大型の打製石器。旧石器時代を代表する万能的な道具であり、人類の道具製作技術と認知能力の進化を示す象徴的な遺物である。
「万能の道具」としての機能と特徴
ハンド=アックスは、石の周囲を交互に打ち欠いて(両面調整技術)鋭い刃を作り出した石器である。特定の用途に特化した後世の石器とは異なり、これ一つで狩猟した獲物の解体、肉や皮の切り分け、骨の破砕、木や骨の加工、さらには食用植物の根の掘り起こしまで、極めて多様な用途に対応することができた。その多機能さから、しばしば「旧石器時代のサバイバルナイフ」とも形容される。形状は楕円形や洋梨型、涙滴(しずく)形などがあり、手で握りやすいように基部(持ち手部分)が厚く残されているのが特徴である。
人類の知性と技術進化を示す指標
世界史の文脈において、ハンド=アックスは特に前期旧石器時代のアシュール文化(アシュリアン文化)を代表する道具である。原人(ホモ・エレクトス)などがこれを作製したとされるが、その整った左右対称の形状は、製作を始める前に完成形を頭の中で思い描く「概念的思考」や「計画性」が人類に備わっていたことを証明している。また、均一な薄さと鋭さを実現するためには高度な打撃コントロールが必要であり、人類の運動能力や手先の器用さが著しく発達したことを示す歴史的・人類学的な一級の資料となっている。
日本における発見と旧石器研究の黎明
日本列島におけるハンド=アックスの存在は、日本史研究において極めて重要な意味を持つ。1949年、相沢忠洋が群馬県の岩宿遺跡において、赤土の層(関東ローム層)からハンド=アックスに類似した楕円形石器などを発見した。それまで「日本には縄文時代以前に人類は存在しなかった(旧石器時代は存在しない)」とされていた学界の定説をこの発見が根底から覆し、日本の旧石器時代(無土器時代)研究が本格的にスタートすることとなった。岩宿の石器群以降、日本各地で同様の打製石器が発見され、更新世の日本列島において人類が確かに生活を営み、シベリアや大陸方面と繋がっていた移動生活の諸相が明らかになっていった。