のらくろ
1931〜1941年
【概説】
昭和初期から戦中にかけて大日本雄弁会講談社の雑誌『少年倶楽部』に連載された、漫画家・田河水泡による大人気漫画。孤児の野良犬である「のらくろ(野良犬黒吉)」が、犬たちの軍隊である「猛犬連隊」に入隊し、様々な失敗を繰り返しながらも、持ち前のユーモアと機転で出世していく物語である。
昭和初期における児童大衆文化の興隆
大正デモクラシー期に育まれた大衆文化は、昭和初期に入るとラジオ放送の開始や円本の流行などを経て、質量ともにさらなる発展を遂げた。その中で、子どもたちを対象とした出版ジャーナリズムの旗手となったのが、講談社が発行した『少年倶楽部』であった。1931(昭和6)年から連載が開始された「のらくろ」は、従来の教訓的な読み物とは異なる、スピード感あふれるナンセンスなギャグと、赤・黄・青などの鮮やかな多色刷りの表現で子どもたちを魅了し、単行本がベストセラーとなるなど社会現象を巻き起こした。
日中戦争期における軍国主義化と「のらくろ」の変容
のらくろの連載期間は、1931年の満州事変から1937年の日中戦争、そして太平洋戦争へと至る、日本が軍国主義の道を歩んだ時期と完全に合致している。主人公ののらくろが「二等兵」から「大尉」へと出世していくプロセスは、当時の陸軍の階級制度を忠実にトレースしており、子どもたちに軍隊への親近感を植え付ける役割を果たした側面は否定できない。しかし、戦争の長期化に伴い言論・出版統制が強化されると、擬人化された軍隊描写やユーモアそのものが不謹慎とみなされるようになり、1941(昭和16)年に連載は打ち切りへ追い込まれることとなった。