おもろさうし (おもろそうし)
【概説】
琉球王国において編纂された、古代の神歌や叙事詩を収録した歌謡集。ひらがな主体で表記され、その素朴で力強い表現から「沖縄の万葉集」とも称される、古琉球の社会・文化・言語を解明する上での第一級史料である。
「おもろ」の語源と国家的編纂の背景
「おもろ」とは、神への祈りや敬意、あるいは感情の発露を意味する「思い(うむい)」を語源とする歌謡(神歌)である。琉球各地の祭祀や宮廷行事で歌われていたこれらの歌謡を、王権の主導によって収集・整理したものが『おもろさうし』である。「さうし(草紙)」は書物を意味する。
その編纂は、第二尚氏王統の黄金期を築いた第3代・尚真王の時代である1531年に、まず巻1(首里王府編修)が成立した。その後、1609年の薩摩藩(島津氏)による琉球侵入という国家的な試練を経て、1623年(尚豊王の時代)に全22巻(収録歌謡1553首)として完成をみた。この長期間にわたる編纂事業には、地方の祭祀集団を首里の王権のもとに組織化し、国王の権威を神格化することで、琉球王国の精神的・政治的な統合をはかるという明確な政治的意図が存在した。
古代琉球の精神世界と「大交易時代」の反映
『おもろさうし』の記述は主にひらがなと一部の漢字でなされており、平仮名の字体や表記法、文法などは日本本土の室町時代の国語学的な影響を受けつつも、独自の言語体系を保っている。これにより、文献が極めて少ない「古琉球語」の復元を可能にする唯一無二の国語学的価値を持っている。
また、内容は多岐にわたり、天帝やアマミキヨなどの創世神話、各地の聖地である御嶽(うたき)で神官(ノロ)が行う神事の様子、さらに歴代の王や英雄の事績を称える叙事詩などが含まれる。これらは日本の古代文学である『万葉集』の素朴さや直截な感情表現と共通性が見られるため、古くから比定されてきた。
さらに歴史史料として極めて興味深いのは、15世紀から16世紀にかけて琉球王国が東アジア・東南アジアを舞台に展開した「大交易時代」の繁栄が生き生きと描写されている点である。中国(明)や南蛮(東南アジア)諸国へと出帆する進貢船の雄姿や、交易によってもたらされた金銀、鉄、漆器などの豊かな富を称える歌は、かつて琉球が「万国の津梁(世界の架け橋)」として果たした国際的な役割と、当時の社会のダイナミズムを現代に伝える一級の歴史的証言となっている。