怪人二十面相

江戸川乱歩の少年向け推理小説シリーズに登場する、明智小五郎の宿敵である有名な怪盗(およびその作品名)は何か?
カテゴリ:
重要度
★★

怪人二十面相 (かいじんにじゅうめんそう)

1936年

【概説】
推理小説家・江戸川乱歩が1936(昭和11)年から雑誌『少年倶楽部』で連載した児童向け推理小説シリーズの第1作、およびその作中に登場する変装の天才である怪盗。名探偵・明智小五郎や小林少年率いる「少年探偵団」の宿敵として、近代日本の大衆文化における児童エンターテインメントの基礎を築いたモニュメント的キャラクターである。

昭和初期の児童大衆メディアと『少年倶楽部』の隆盛

大正期から昭和初期にかけての日本は、大正デモクラシー期に開花した「大正教養主義」や児童自由画運動などを背景に、子どもを「純真な存在」として捉え、独自の文化を育む土壌が形成されていた。大正期には鈴木三重吉の『赤い鳥』をはじめとする芸術性の高い児童雑誌が流行したが、昭和期に入ると、より娯楽性と購買欲を刺激する大衆的な児童メディアが台頭する。その代表格が、大日本雄弁会講談社が発行した雑誌『少年倶楽部』であった。

『怪人二十面相』は、この『少年倶楽部』の昭和11年1月号から連載が開始された。1930年代の日本は満州事変以降、徐々に軍国主義の色彩を強めていく時代であったが、同時に都市部を中心とした大衆モダニズム文化が極限に達した時期でもあった。乱歩が描いた、洋館、秘密基地、特異な科学ガジェット、そして知的な駆け引きといった要素は、当時の子どもたちにとって「近代都市のロマン」そのものであり、合理的・科学的思考への強い憧れを育む役割を果たした。

江戸川乱歩の「転向」と非暴力の怪盗像

作者の江戸川乱歩は、1923(大正12)年に『二銭銅貨』でデビューして以来、大正デモクラシー下の退廃的かつ幻想的な「エロ・グロ・ナンセンス」の流行を牽引した大人向けの探偵・怪奇小説家であった。しかし昭和期に入り、社会の右傾化と検閲の強化が進むなかで、乱歩はその卓越した怪奇的イマジネーションを、健全かつ冒険心に満ちた「児童文学」へと昇華させる道を選んだ。これが「少年探偵団」シリーズへのシフトである。

この作品に登場する「怪人二十面相」の最大の特徴は、変装の達人であり、かつ「決して人を殺傷しない」、さらに「貧しい人々からは盗まず、悪徳な富豪や美術コレクターのみを狙う」という強い美学(コード)を持っている点にある。戦時体制へと向かい、社会全体が実利主義的かつ殺伐とした空気感に覆われつつあるなかで、血を流さない知的なゲームとしての「泥棒と名探偵の対決」は、子供たちに安全で良質なスリルを提供した。このキャラクター造形は、戦後の特撮ヒーローやアニメにおける「ライバル像」の原点となり、日本のポップカルチャーの血脈として今日まで受け継がれている。

怪人二十面相

変幻自在の怪人と名探偵の対決に胸躍る、ミステリーの金字塔。

少年探偵団 (少年探偵・江戸川乱歩 文庫版 第 2巻)

力を合わせて難事件に挑む少年たちの冒険心と勇気を描いた名作。

最終更新:2026年6月17日 @ 23:49

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