局部磨製石斧 (きょくぶませいせきふ)
【概説】
石器の刃先など、一部分のみを研磨して鋭利に仕上げた石斧。日本列島における後期旧石器時代前半期の指標となる遺物であり、世界最古段階の磨製石器として極めて高い歴史的価値を持つ。
世界最古段階の「磨製」技術と世界史的意義
従来の考古学における世界史の通念では、石を打ち欠いて作る打製石器は旧石器時代、石を磨いて作る磨製石器は農耕や牧畜が始まる新石器時代を特徴づける道具とされてきた。しかし、日本列島においては、約4万年前から約3万年前にかけての旧石器時代(後期旧石器時代の前半期)の遺跡から、この局部磨製石斧が相次いで出土している。
これは、ヨーロッパや中国などのユーラシア大陸の大半の地域に先駆けて、日本列島の人類が極めて早い段階で「磨く」という技術を獲得していたことを示している。日本の旧石器時代の存在を初めて証明した岩宿遺跡(群馬県)の暗褐色粘土層(B2層)からも出土しており、日本の考古学研究の発展において極めて重要な役割を果たした石器である。
構造と製作における技術的特徴
局部磨製石斧は、刃部全体を磨き上げる縄文時代の「全磨製石斧」とは異なり、石器全体を打製によって大まかに成形した後、木を伐採・加工する上で最も重要となる刃先(刃部)のみを砥石で擦り磨いて仕上げられている。この技法により、打製石器よりも格段に鋭く、かつ衝撃に強い強靭な刃先を作り出すことに成功した。
使用された石材は、硬度が高く緻密な組織を持つ蛇紋岩(じゃもんがん)や凝灰岩、頁岩などが中心である。当時の旧石器人が、石材の性質を熟知した上で、磨製に適した素材を選択的に採取し、効率的に実用的な利器を製作していた知恵が窺える。
森林環境への適応と用途
局部磨製石斧の主な用途は、木工用の道具であったと考えられている。刃を縦方向に取り付けた「縦斧(たておの)」や、横方向に取り付けた「横斧(平刃の斧、ちょうな)」として木製の柄に装着され、樹木の伐採や木材の荒削り、あるいは住居の柱の加工などに使用されたと推測される。
当時、日本列島は氷期にあたり冷涼な気候であったが、列島内には針葉樹や落葉広葉樹による森林が広がっていた。旧石器時代の人々は、遊動生活を送りながらも、大型獣を捕獲するための「陥し穴(おとしあな)」の杭作りや、簡易な住居、あるいは防寒具や移動用具としての木製品加工のために、この石斧を必要とした。なお、この画期的な石器は、約3万年前を境に列島内から一度姿を消し、再び磨製石器が一般化するのは一万数千年前の縄文時代を待つこととなる。