風土

和辻哲郎が著し、世界の気候環境を「モンスーン」「砂漠」「牧場」の3つに分け、それが人間の文化や思想に与える影響を論じた書物は何か?
カテゴリ:
重要度
★★

風土

1935年

【概説】
哲学者・和辻哲郎の代表的な著作。人間の思想や文化、生活様式が、その土地の気候や地理的環境(風土)によってどのように制約され、形成されるかを鋭く考察した環境哲学の書。

「風土」による人間生活の3類型

和辻は本書において、世界各地の気候や地理的特性を「モンスーン」「砂漠」「牧場」の3つの基本型に分類し、それぞれの地域における人間の性格や文化の特質を論じた。

まず、アジアに代表される「モンスーン」型は、湿潤で自然の恵みが豊かである反面、台風や洪水といった猛威を伴うため、人間は自然に対して受容的・忍従的な性格を帯びるとした。中東などの「砂漠」型は、生と死が隣り合わせの極限の乾燥地帯であり、人間は自然に対抗して強固に団結し、そこから超越的な絶対神(一神教)への信仰が生まれたとされる。そして、ヨーロッパに代表される「牧場」型は、乾燥と湿潤の調和した温和な自然環境であり、自然は従順で規則的なものとして捉えられ、客観的・合理的な科学的思考が発達したと分析した。

西欧近代哲学への批判と昭和思想史における位置づけ

和辻が本書を構想した背景には、大正末期から昭和初期にかけてのドイツ留学経験がある。彼は当時台頭していたドイツの哲学者マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に強い影響を受けつつも、ハイデガーが人間の存在を時間的な側面のみで捉え、空間的な広がり(環境や風土)を軽視していることに強い疑問を抱いた。和辻は、人間を単なる孤立した個人ではなく、空間的に他者と結びつく「間柄(人間:じんかん)」として捉え直し、その生存の場としての「風土性」を重視したのである。

さらに和辻は、日本をモンスーン型のなかでも季節の急激な変化を伴う「特殊型」に位置づけ、その突発的・二面性のある気候が日本人の「あきらめ」と「熱情」が同居する特有の感性を育んだと論じた。この独自の環境文化論は、西洋近代の個人主義や科学至上主義に対する東洋・日本からの知的反論の試みであり、大正デモクラシー期から昭和戦前期の知識人たちに広く受け入れられ、その後の「日本文化論」の先駆的な古典となった。

風土: 人間学的考察 (岩波文庫 青 144-2)

気候風土が人々の精神構造や文化にどのような影響を及ぼすかを解き明かした、比較文化論の金字塔的著作。

大正時代: 記録を記憶に残したい

大正という特異な時代の空気を、鮮やかなビジュアルと記録資料で鮮明に蘇らせる、歴史体験の視覚的アーカイブ。

最終更新:2026年6月17日 @ 23:49

日本史一問一答(ランダム)

Q. アジア太平洋戦争の敗戦時、満州などからの引き揚げの混乱の中で取り残され、現地の中国人に育てられるなどした日本人孤児らを何というか?
Q. 地磁気の測定やメートル法の導入に尽力し、またヘボン式とは異なる「日本式ローマ字」の普及運動も行った物理学者は誰か?
Q. 明和事件において、山県大弐らとともに幕府を批判したとして捕らえられ、死罪となった京都出身の尊王論者は誰か?