高階隆兼 (たかしなのたかかね)
生没年不詳、13世紀末〜14世紀初頭に活動
【概説】
鎌倉時代後期に宮廷の絵所預を務めた、大和絵を代表する高名な絵師。代表作『春日権現験記絵巻』に見られるような、緻密な描線と極彩色の端麗な画風で知られる。平安朝以来の伝統的絵画技法を高度に洗練させ、鎌倉絵巻の技術的頂点を示した人物である。
宮廷絵所のトップ「絵所預」としての活動
高階隆兼は、朝廷の絵画制作組織である「絵所(えどころ)」の長である絵所預(えどころあずかり)を務めた絵師である。鎌倉時代は武家政権の台頭によって政治の中心が鎌倉へと移行した時代であったが、京都の宮廷や貴族社会では依然として王朝文化への強い憧憬と誇りが保持されていた。隆兼はこうした宮廷社会の需要に応え、公家好みの洗練された美意識を体現する作品を多く手がけた。彼の率いた高階家は、中世の宮廷画壇において確固たる地位を築くこととなる。
最高傑作『春日権現験記絵巻』と洗練された技巧
隆兼の代表作として知られる『春日権現験記絵巻』(かすがごんげんげんきえまき)は、延慶2年(1309年)に鎌倉幕府とも深い繋がりを持った有力公卿の西園寺公衡(さいおんじきんひら)が発願し、春日大社に奉納したものである。絹本着色という極めて贅沢な素材が用いられ、高価な顔料をふんだんに使った「つくり絵」の技法によって、春日大明神の霊験や貴族たちの生活が色鮮やかに描かれている。正確な有職故実(ゆうそくこじつ)に基づいた精緻な描写と、破綻のない調和の取れた構図は、中世大和絵絵巻の最高峰と評価されている。